学会紹介
海洋深層水の力で地球を持続可能なものに 海洋深層水利用学会
海水という言葉を聞いたとき、人々はどのようなイメージが頭の中に広がるだろうか。深海に存在する海水をイメージした人は少ないのではないだろうか。海水と一言で言っても、海の表層か深層かで性質が異なる。普段一般の人々の目につかない深層の海水に資源としての可能性を探り、利活用するための研究をするのが、海洋深層水利用学会である。今回は、海洋深層水利用学会会長である大塚氏と、事務局長の有馬氏に、海洋深層水の使い方や、今後の展望についてお伺いした。
化粧品からエネルギーまで幅広く活用できる海洋深層水
― 海洋深層水と聞いて、どのようなものなのか分からない読者の方もいらっしゃると思います。改めまして、海洋深層水とはどのようなものなのかお聞かせください。
大塚氏:深海にある海水を深層水と称されることもありますが、当学会にて海洋深層水をどのような意味で用いているのかを一言で示すと「資源」という表現になると思います。海洋深層水は3つの特徴をもっており、それらの特徴がそれぞれ資源として活用することができます。3つの特徴とは、年間を通して低温で安定していることを表す「低温安定性」、栄養が豊富であることを表す「富栄養性」、最後にバクテリアなどが少なくて綺麗なことを表す「清浄性」です。これらの特徴をもった海水を全て海洋深層水と定義しています。
― 深層の海水にそのような特徴があったのは驚きです。次に研究の社会実装の観点から、海洋深層水はどのように活用されているか教えていただきたいです。
有馬氏:一般の方々がイメージしやすいのが、化粧水や飲料水などの海洋深層水商品と呼ばれるものだと思います。ただ、もう少し広い視点で見ると、海洋深層水は広義でのインフラの一部としての機能を持っています。最初に着目されたのは、低温安定性を活かして海洋温度差発電に活用されたことです。他にも、栄養が豊富なことから海洋植物の栄養分として活用されます。海中で栄養分として機能するため、海藻が育つ基盤としての役割も担えます。また、より大きな視点としては、人口増加による水不足への対策に役立ちます。昨今、人口爆発によって世界全体として水不足に陥っているという状況があります。そこで海水が注目されているのですが、海面表層の海水はいろいろな物質などが混じっているので、それを取り除くのは非常に大変です。それに対して、深層水の場合は清浄性が特徴として挙げられるほどきれいな水ですので、異物を取り除くのにも比較的には手間がかかりません。
産学官連携で未利用資源の可能性を広げる
― 最初に海洋深層水利用学会の設立の背景をお聞かせいただければ幸いです。
大塚氏:海洋深層水利用学会の前身は1997年に設立された海洋深層水利用研究会という研究会です。当時は、すでにいくつかの場所で海洋深層水についての研究が行われていました。またその当時は、研究を進めていくうえで研究者同士のネットワークや研究成果を広めていく段階でもありました。
― ありがとうございます。当時はどのような目的で設立されたのでしょうか。
大塚氏:海洋深層水は人類共有の未利用資源の一つでした。そして、海洋深層水の有効利用を図るためには、産学官の連携や海洋深層水利用に関する研究の推進・発展が必要不可欠でした。さらには、国際的な連携も求められていました。そこで、国内で個人や団体が情報交換を円滑に行えるプラットフォームとして、海洋深層水利用研究会は設立されました。
― 産学官連携というのは、故イ未来のテーマの一つでもあります。海洋深層水利用学会様の産学官連携に対するお考えを教えてください。
有馬氏:元々、当学会そのものが学術界ばかりというよりも、どちらかというと企業の方が集まったり自治体の方々が集まる場面が多い団体です。全体として大学、自治体、企業の方が3分の1ずつ集まって活動しているようなイメージで、産学官連携に適した学会だなと感じております。実際に、自治体が取水している深層水を使った商品などを発表する全国大会では産業界の方も多く来られます。
海洋深層水を用いて持続可能な地球を目指す
― 今後の学会としての展望をお聞かせください。
大塚氏:社会のニーズに応えられる技術開発に貢献しようと考えております。そのためには自分たちのやりたいことだけではなく、社会のニーズをくみ取り、それに応えなくてはなりません。そのためにも、学会として海外も含め外部との連携を推進する必要があり、連携を推進するための役職も設置しております。周りを巻き込んだ活動を通して、海洋深層水そのものの価値を正しく一般の人に広げていくことが大切です。そうすることで、更により外部の方々と連携ができる基盤が整い、社会のニーズに応える技術を生み出すことができると考えております。
― 最後に、最終的なビジョンとして何か描かれていることがありましたら教えてください。
大塚氏:当学会の究極の目標として、地球を救うという大きな目標があります。その目標を実現するために、海洋深層水をどのように利用することが効果的であるかということを考えています。水や食料、インフラとしての機能は将来にわたって必ず必要になります。そういったものを海洋深層水で生み出せるため、我々は海洋深層水は地球を救うことができる資源とみております。持続可能な未来を目指し、今後とも精進して参ります。
<学会概要>
名称:海洋深層水利用学会
設立:1997年
HP :http://www.dowas.net/
Youtube:なし
SNS:なし
設立趣旨:人類共有の未利用資源である深層水の有効利用を促進するためには,産学官の連携による国内組織を強化・充実し,深層水利用に関する研究の推進と成果の普及を図る必要があります。さらには国際的な連携のもとで研究活動を推進することが,国内外において強く求められており,特に,深層水利用に関心をもつ団体や個人が自由に参加して情報交換を行うことができる組織を国内に早急に設立することが切望されています。これらの状況を鑑み,またその要望に応えるため,ここに海洋深層水利用研究会を設立しようとするものであります。「設立趣意書(1996年11月20日)より抜粋」