学会紹介

社会を幸福に導く工学の在り方と人材の育成 公益社団法人日本工学会

東京大学工学部の前身である工部大学校は、明治の初期に創立された。当時は異国に負けないよう、国を挙げて科学技術の発展を試みた時代であった。その当時工部大学校の第1期卒業生によって創立されたのが、現在の公益社団法人日本工学会である。約140年以上にわたり続けてきた学会活動の背景にある思いや、学会の今後の展望について、副会長の小松氏、事務局長の井上氏、そして事務研究委員長の結城氏にお話しをお伺いした。

懇親会から始まった歴史ある学会

(引用元:ウィキペディアフリー百科事典.工部大学校. (泉田英雄).https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%A5%E9%83%A8%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E6%A0%A1.最終閲覧日:2021年4月7日)

― 日本工学会は明治時代から続く学会だとお聞きしました。

井上氏:はい、明治12年(1879)に工部大学校(現在の東京大学工学部の前身)の第1期卒業生23名によって、国を工学で発展させようという目的で「工学会」として創立されました。現在創立から140年以上が経ちましたが、当学会のはじまりは懇親会のようなものでした。

― 非常に歴史ある学会も、最初は懇親会というのは驚きです。なぜ学会として再スタートを切ることになったのでしょうか。

井上氏:工部大学校の創設に関わった山尾庸三が、イギリスに留学をしていたことがありました。そこで工学の重要性を知り、懇親会ではもったいないと考え、学会へと移行していったのではないかと考えております。

学術界だけにとどまらない幅広い活動領域

― 具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。

井上氏:活動内容は多岐にわたります。例えば、工業系の大学をつくるときのサポートや明治政府の工学のついての政策に関わるような活動もしたようです。また、現在の活動で主なものをいくつか挙げさせていただきますと、世界工学団体連盟(WFEO)の準会員として、日本学術会議と協力して各国の工学団体との交流を図ることや、科学技術振興や工学教育などに関するテーマを取り上げ、毎年公開シンポジウム等を主催しております。

― 一般的な学会は個人や企業様などを会員とされているところが多いと思います。それに対し、日本工学会は学会を会員とするところも特徴かと思いますが、どういった経緯でそのような仕組みになったのでしょうか。

井上氏:工学会から様々な学会が社会へ巣立っていったことがきっかけです。最初は23人の個人が集まっただけでしたが、工部大学校が東京大学工学部になり、しっかりとした工学の人間、つまりそれぞれの分野で活躍している人が集まって、それぞれの分野の学会が独立していきました。電気学会、機械学会などが主な例です。ところがその結果、工学会そのものは何を研究分野として運営されている学会なのかがよくわからないという状態になってしまいました。つまり、学会としての機能が曖昧になっていました。そこで学会を会員とするアンブレラ学会という機能を持たせることにしました。

140年の時を経て、変わるものと変わらないもの

(日本工学会様が中心となって開催され、世界の68カ国が参加した第5回世界工学会の様子です。)

― 140年続く中で、変わったこと、また変わらなかったことがありましたら、それぞれ教えてください。

小松氏:日本工学会の使命や社会に対する役割というのは、時代を経て移り変わっていきました。明治初期の設立時はとにかく世界に追いつき追い越せ、まさに帝国主義の時代でした。国として生きるか死ぬかの戦いをしている中で、異国に立ち向かうために科学技術が必要となり、工学の必要性が国家レベルで認識されておりました。そこから第二次世界大戦、高度経済成長を経た、現代では、一般企業や政府の活動、そして学会としての活動にもSDGsやサステナビリティが求められる時代です。取り残される人がいない、且つ、環境にも配慮した科学技術の活用を推進する必要があります。

結城氏:変わらないものとしては、研究者が研究成果を発表し、社会に実装し、次の世代につなぐという機能。また、各学会の時代と共に変わる大きな課題を共有するためのプラットフォームとしての役割が挙げられると思います。

― 確かに昨今ではSDGsや多様性、環境保全というのは様々な問題に関わるキーワードかと思います。今おっしゃっていただいた役割を果たす際の課題などはあるのでしょうか。

小松氏:それらの問題には、一つの専門分野だけでは到底太刀打ちできないということです。いろいろな専門分野の知識を集めて対応しなければなりません。工学だけでなく、人文社会科学も必要ですし、工学の中でも土木・建築だけでなく、電気、機械、化学といったように幅広い知識を集約させる必要があります。工学会ではそのような横のつながりをつくることを意識しており、今では100近くの学協会を束ねています。また学術界の中のみに限らず、いろいろな分野の専門家やその道の長けている人に集まっていただいて、意見交換をする場なども設けております。そこには大学の先生もいれば、産業界の役員クラスの方、他には、国の省庁の方に来ていただくこともあります。一つのテーマについて多種多様な分野の人が集まって議論し、課題を解決するというのは今後非常に重要だと考えています。

社会全体の幸福に資する工学の発展と研究者並びに技術者の育成

(2010年の科学技術人材育成シンポジウムでは、150名以上の方が参加されました。)

― 最後に、お三方が考える今後の学会の展望についてお聞かせください。

結城氏:技術者や研究者が社会的に評価されて、地位も保障されるとよいと思います。そうなると、彼ら・彼女らが学問的なところを究めることができるからです。そのような人、特に若い人たちが増えてくると、同好会的な活動を始めたい人が増え、工学会の各会員学協会の会員が増えてきます。このように、日本工学会の役割として、技術を持つ彼ら・彼女らが楽しいと思うこと、好きだと思うことに没頭し、成長できる場の提供を推進できるとよいと思います。

井上氏:そうですね、あとは学会専門分野の方が集まって、工学全体の底上げのお手伝いをすることができればと考えています。学問全体の発展のためには個々の学会と個々の研究者の成長が必要です。私は学会の事務局として、まず経営基盤を固めること。そして、結城さんが言うような学問を追求する人材の同好会のようなものは大事だと考えており、同志が議論できる場をいかに提供できるかということを意識しています。

― お二方、ありがとうございます。最後に小松さん、いかがでしょうか。

小松氏:私からは、なぜ学問やその道に長じた研究者且つ技術者の成長を促すのか、という観点でお話させていただければと思います。それは最終的には人類や、地球全体の幸せをゴールとしているからだと考えています。結局のところ、知識は社会全体に還元されることで意味を持ちます。そのような大きな目標のために、我々日本工学会は、工学とはどのようにあるべきなのかを考えられる人材を育てていきたいです。今後は工学がどのような影響を社会に与えることができるのか、そのためにはどうするべきなのかを倫理的な問題も含め、全員が多角的に、そして真剣に考えなくてはいけません。学会全体としてそのような研究者を育てることに貢献できればと思います。


<学会概要>
名称:公益社団法人 日本工学会
設立:1879年11月18日
HP:http://www.jfes.or.jp/
Youtube:なし
SNS:なし
設立趣旨:工学に関する学術団体及び関連する団体若しくは個人との連携協力を行うことにより、工学及び工業の進歩発達に寄与することを目的とする。