学会紹介

地質への理解を広げ、地域での安全な社会生活を支援 100年以上の歴史を誇る学会 一般社団法人日本地質学会

私たちは自分が住んでいる地域の地質や資源について、どれくらい知っているだろうか。地質は私たちの生活に密接にかかわっている。例えば、いざ自然災害が起こった時に、自分の住んでいる地域の地質特性を理解しているのとそうでないのとでは、自分の身を守る上で大きな差が出るだろう。ほかにも、建物を建築する際の地盤調査等、ビジネスシーンにおいても地質学は活用されている。このように様々な場面で幅広く活用されているに地質学に関して、明治時代から研究を進め、社会への普及・教育を推進している学会の一つが、一般社団法人日本地質学会だ。今回は、広報を担当している坂口有人先生(日本地質学会執行理事)に、地質学の日常生活での活用方法や、学会の今後の展望等を伺った。

近代から国土開発・資源発掘を支えてきた地質学

(2015年春 / 5月「2015年度春期地質調査研修」の様子)

― 地質学とはどのような学問なのかお聞きしてもよいでしょうか。

坂口氏:地層や岩石,化石,鉱物などの探求と、地球の生成から現在に至るまでの地球史への理解、そして未来への予測までも可能にする学問です。18世紀末に、”Geology”という言葉が生まれました。”Geo”は地球、”logy”は学問を意味し、日本では明治初期に地質学と訳されました。近代はどこの国でも発展するために国土や地下資源のについての理解が必須でしたので、地質学は有効活用されました。

地質への理解と知識の普及を推進

― 日本地質学会の概要についてお教えください。

坂口氏:はい、日本地質学会の起源は1893年5月に設立された東京地質学会です。時を経て、1934年10月に日本地質学会に改称されました。明治時代から続いているため、学術学会としてはかなり古いほうです。我々日本地質学会は、地質学の発展や普及を目指して活動していて、日本の地球諸科学関連学協会の中では最大規模の学会であると自負しております。

― 学会としては、どのような活動をされているのでしょうか。

坂口氏:基本的に火山がどうして噴火するのか、地震はどうして起こるのかなど、自然を理解するということをテーマに活動しており、内容は大きく分けて3つに分けられます。一つが学術活動、もう一つが社会活動、そして最後に普及・教育活動です。我々は学会であるため、学術学会の研究支援がメインで年に一度は大きな大会があります。今年は第128弾となる大会を9月に行う予定です。また『地質学雑誌』、『Island Arc』を始めとした学術雑誌も毎月発行しています。社会活動としては、豪雨や地震などの自然災害が起こったときには調査を行います。学会として地質の調査が重要であることを声明として発表しています。普及・教育活動に関しては、地学教育委員会を設置して「地学教育・地学史 セッション」、「教員対象の地質見学会」、や「小中高校生の研究発表会」などを開催し、子供たちを含めた市民と共に「日本の地学的自然について学び考える」機会を確保しています。

― 社会に対しても広く活動をしているのですね。そのような活動の中で、産学連携や外部組織との連携をする場面はありますか。

坂口氏:外部組織との連携による具体的な事業・研究という事例はまだありませんが、会員の中に産業界の人は一定の割合でいます。産業界の方が1000名程度、研究者の方も1000名程度です。当学会では地質技術者の継続的な専門教育に携わっているのですが、産業界の方は、そのような専門知識の習得のために所属しているようです。現在地質系の調査会社も初めは研究所から始まることもありますし、この分野は基礎研究と応用が非常に密接です。自然を理解することは、すぐにはビジネスに繋がらないかもしれませんが、ゆくゆくは必ず役に立つ学問であると思っています。

自然現象という、地域での生活に伴うリスクに対処するために

― ありがとうございます。社会一般に対しての活動をする上で課題感などもあるのでしょうか。

坂口氏:地学教育の充実と自然災害や環境問題に対する一般市民の理解を高めることが課題として挙げられます。特に地学教育という点では、高校での地学の履修率が著しく低く、教科書の売り上げシェアから推測すると数パーセントです。地球の中にある日本という国では、完全に安全な地域に住むことは不可能です。だからこそ、自分が住んでいる地域にどのようなリスクがあるのか、そしてその地域に住むうえで想定できる最悪な状況とは何かを知ることが重要であるのに、そのための知識を持っていないことは問題であると捉えています。こういった社会課題に対しても、学会として取り組んでいければと考えています。

― 安全な生活を守るうえで非常に重要な学問であることが分かりました。日本地質学会として、研究を社会にとってどのように活かしていくかについて、どのように考えられているのかお伺いしてもよろしいでしょうか。

坂口氏:災害を含む自然現象についてのブラックボックスを明らかにすることが我々の役割の一つだと考えています。特に日本では、土石流や地滑り、地震や津波、火山と非常に自然災害が多い場所です。自然現象は、巨大地震などが100年に一回起きるか程度で、データを集めづらく、予測も難しいです。いつ、どのタイミングで災害が起きるのか予測するためには経験やデータと自分たちが住んでいる地球について理解することが非常に重要です。そのため、自然災害を予測し、適切な対応をするための知識を提供することで社会に貢献できればと考えています。

ジオパーク制度の活用 地質学の知識で地域社会に貢献

― 日本地質学会の今後の展望についてお教えください。 坂口氏:我々の研究をしていることを、より地域の活動や観光に活かされるよう進めて参ります。最近では、日本でも増えてきたジオパークという制度に関連した活動を推進しています。ジオパークという言葉は、”Geo”(地球)と”Park”(公園)を組み合わせた造語で、文明が発展していく中、自然現象でできた景観のこと、川や海、大地、そのほかにサイトを指すこともあります。日本では2009年に日本ジオパークネットワーク(JGN)が結成されて以来,2020年4月現在43地域が登録されています。当学会は、ジオパーク支援委員会というものを設置しており、認定をめざしている地域への学術支援,そしてジオパークとしてふさわしい地域の開拓などを行っています。ジオパークは観光として人を呼び込み、防災や地学を学ぶ場としての役割もあります。我々の活動を通して、自分たちが住む地域に誇りを持てる社会を作れればと思っています。


<学会概要>
名称:一般社団法人日本地質学会
設立:1893年5月
HP :http://www.geosociety.jp/
Youtube:https://www.youtube.com/channel/UC99k2wQzX5PrlTNj7GXtu6Q
SNS:なし
設立趣旨:地質学とその応用についての研究成果の公表、知識の交換、内外の関連学会との連携協力等を行うことにより、地質学の進歩と普及を図り、学術の振興と社会の発展に寄与・貢献することを目的とする。