学会紹介

景観を読み解きサステナブルな地域社会づくりに貢献 日本景観生態学会

2015年9月に、「SDGs – 持続可能な開発目標」が国連サミットで採択されたように、「持続可能(サステナブル)」であるかどうかが全世界で重要視されている。そのような中、日本で持続可能な社会づくりに向け「景観」を切り口に活動を行っている学会の一つに、日本景観生態学会がある。今回は、日本景観生態学会会長の鎌田氏をはじめ、5名の先生方にご自身の活動に対する思いや、今後の展望をお伺いした。

何気ない景観に潜む物語

―「景観生態学」とはどのような学問なのか、教えてください。

鎌田氏:地球上には多種多様な生物が存在しますが、ある地域に存在する同じ種類の個体の集まりを「個体群」といいます。地域の中では、いろいろな種の個体や個体群が互いに関係しあいながら存在します。そのような異種の個体もしくは個体群の集まりを「群集」といいます。そうした生物群集は、大気や土壌等とともに「生態系」を構成する重要な要素です。生態系は、森林、草原、河川、水田、都市のように、構造とその空間的な広がりで認識できます。地域の中には、様々な生態系が存在しています。そして、それら生態系の間には、様々な相互作用があって、その相互作用のあり方によって地域特有の機能がどれだけ発揮されるかが決まってくるわけです。森林、草原、水田といった異質な生態系がモザイク状に分布する空間の全体的なシステムを、我々は「景観」として定義しています。景観生態学は、異なった生態系で形づくられる景観の構造や、生態系間の相互作用で発揮される景観の機能、また、それら構造と機能の関係や時間的変化を明らかにし、あわせて、そうした生態的過程と人の暮らしとの関係性を読み解いていこうとする学問分野です。そして、地域の歴史性・風土にもとづいて、どのような生態系をどのように配置していくのがその地域にとって一番ふさわしいのかを考え、提案します。

景観を読み解く

― 様々なつながりを明らかにしていくとのことでしたが、学会に所属していらっしゃる皆さんは、具体的にどのような活動を行っているのでしょうか?

鎌田氏:学会には、生態学、造園学、緑化工学、地理学、土木工学、建築学等、専門分野の異なるいろいろな人たちが集まっています。大学等に務める研究者だけでなく、コンサルタントの技術者もいます。研究だけでなく、地域のNPO等で保全活動を行っていたりもします。そのため、様々な見方を持ち寄って情報交換をし、ここで学んだことをそれぞれの研究や実務に持ち帰ることができる学会になっています。基礎研究から、土地利用のあり方をデザインして新しい土地の使い方を提案したり、地域の経済が循環するように地域特有の生態系をどう活かしていくのかを提案したりする人までいる、幅広い学会です。

松島氏:景観生態学を学ぶことによって、自分の専門分野だけにとどまらない、広い意味での繋がりをすごく意識できるようになります。物事の関係性を広く深くとらえる景観生態学の見方を用いることで、活動の幅がぐっと広がります。

河本氏:地理学を基盤にしている私も、フィールドワークや授業に景観生態学の見方をとりいれています。人の暮らしと土地利用と生態系の関係など、面白いですよ。どうしてこの水田や森林にこの生き物がいるのか?それは人間にとってどうなのか?過去の経緯だけでなく、現状をどう変えていくかという未来志向の見方も景観生態学から得られます。

変容する景観

― 景観生態学の見方は社会で幅広く役立ちそうですが、活動等を通して感じる課題はありますか?

鎌田氏:地域の価値を浮かび上がらせていく活動をしているので、その価値を共有し、社会に生かしたいという想いをみんな持っているのですが、やはり個々に課題は感じていると思います。

松島氏:東北地方の太平洋沿岸では、東日本大震災からの復旧事業として防潮堤が整備されました。ここには自然堤防として砂浜や砂丘が広がっていたのですが、安全性を追求した結果、コンクリート構造物に置き換えられて地域の海浜生態系を大きく変えることになってしまいました。発災から10年が経ち、失ったものに地域の方々が気づきはじめました。現在、地域の方々と協働しながら、防潮堤の影響を緩和するため、防潮堤を砂丘化する取り組みをはじめています。

伊東氏:都市や地域の自然再生デザインの実践とプロセス研究を続けてきました。具体的には、生物多様性を考慮した都市公園のリニューアル、小学校校庭の自然再生、一級河川での魚道公園、工場の生物多様性緑化などです。25年ほどこの仕事をやってきて、産業界からの仕事の依頼も増えており、私たちの活動内容は理解されやすくなってきたと感じます。この場合、経済活動とセットで取り組むことが必要になります。そこに我々の活動をどう入れ込むかということが常に課題としてあります。

丹羽氏:景観を読み解いた結果を地域づくりに反映させる、私はそこに景観生態学の醍醐味を感じています。地域づくりにつなげるためには、景観を読み解く専門知識に加えプロジェクトをマネジメントする能力が必要になります。また、経済的な視点がないと、活動自体を持続させることが難しくなります。自分自身にマネジメント能力がなければマネジメントできる人とチームを組む、そのようなチームビルディングが課題の1つだと感じています。

景観の持続性と地域の価値

― 最後に、今後の学会の展望をお聞かせください。

伊東氏:これまで旅や仕事で50カ国を歩いてきて、その土地独自の食べものと環境(植生や生物)の繋がりに面白さを感じています。我々にとって不可欠な食材の生産の可否は、自然と人間の関係性によって決まります。生態系から受け取ることができる食材(生態系サービス)を、どうしたらサスティナブル(持続的)に受けることができるかを考え、その仕組みを守ることができるような社会をつくっていきたいと思います。

河本氏:「田舎」の価値を社会全体で共有し、田舎で暮らしたいと思ったらちゃんと暮らせるようにしたいです。それがこれからの自然と人のかかわりや景観の在りようにつながります。そのためには、相手の課題がどこにあるのか、どのような想いをもっているかを聞き取り、自分には何ができるかを考えたうえで、色々な人と組みながら一緒に未来を探っていくことが大切であると思います。この学会には、未来志向で「社会をもっと良くしたい」想いをもった仲間が集まっています。同じような志を持つ者同士、お互いにディスカッションを重ねながら自分がやりたいことを見つめ直し、それぞれの現場で社会に貢献していけたらと思います。

鎌田氏:地域が持っている価値を浮き彫りにして、その価値・物語に興味を持つ人と結びつけ、使えるようにする。そして、その価値に対して支払われたお金が、その地域の景観、自然、文化の維持や向上につながっていく社会の仕組みを作っていきたいです。そこにある田んぼの風景など、消費するものではない景観に価値を生み出せるような仕組みを作っていきたいのです。基本的にこの学会にいるメンバーは、目に見えている風景の裏にあるプロセスとか、隠れている意味を表に出していきたいという想いを持っています。隠れているものは、自然だけではなくて、暮らしとか歴史とか、自然と人の関係性、つまり風土のようなものも含まれます。景観の全体像を浮き上がらせて、その価値を表現したい。そして、浮き上がらせた価値を未来につなげていきたい。そんな想いを胸に、今後も活動を続けていきたいと思います。

今回は日本景観生態学会 会長 鎌田磨人氏(徳島大学;左上)、副会長 伊東啓太郎氏 (九州工業大学;中央上)、庶務幹事 丹羽英之氏(京都先端科学大学;右上)、IALE担当副幹事 松島肇氏(北海道大学;左下)、専門幹事 [地理学] 河本大地氏(奈良教育大学;中央下)、にお話を伺いました。


<学会概要>
名称:日本景観生態学会
設立:1991年4月3日
HP: http://jale-japan.org/
Facebook:https://www.facebook.com/475033909196412/
設立趣旨:生態的土地利用施策,国土・地域のエコロジカル・プランニング,生態系管理の基礎となる景観生態学を発展させていくこと