学会紹介
英語学習のその先へ、世界へと広げる橋渡しを~ 日本中世英語英文学会
宮廷で人々に物語を聴かせる英詩の父チョーサー (ジェフリー・チョーサー『トロイルスとクリセイデ』15世紀 Cambridge, Corpus Christi College MS 61, fol. 1v)(c)The Parker Library
義務教育段階では、英語の暗記学習をするケースが非常に多い。しかし、本来英語という科目の学習の先には、世界中の文化を知り、心に触れ、今まで見聞きしたことのない世界が広がっている。日本国内の枠を超え、世界中の研究者との交流を深め、若手研究者のプラットフォームとして、そして若手世代のグローバルトリップへの架け橋となっているのが、日本中世英語英文学会である。今回は、同学会の、和田会長、鈴木副会長、大沼事務局長(役職はいずれも2021-22年度のもの)から若手世代に対するメッセージを頂戴した。
目次
・日本全国を結び、中世英語英文学を探求
・世界中の学会との交流を促進し、若手研究者の登竜門となる
・大会等のオンライン化により、よりシームレスな国内外交流が実現
・暗記学習から抜け出し、英語についてもっと知りたくなるきっかけを
日本全国を結び、中世英語英文学を探求
学会誌Studies in Medieval English Language and Literatureの創刊号
― 御学会の設立背景について教えてください。
1955年に関東を中心とする研究者によって「中世英文学談話会」が発足し、第一回の談話会が開催された一方で、関西では「中世英文学研究会」が 1965年に設立されました。「中世英文学談話会」と「中世英文学研究会」は、それぞれの地にて会員数を着実に伸ばし ていき、1985年に、両組織のさらなる発展を目指して合併し「日本中世英語英文学会」が設立しました。統合したことにより、両者念願の全国大会が毎年開催されるまでに学会の規模が拡大いたしました。また「談話会」と「研究会」は、それぞれ東西支部となり、今でも年に一度、東と西に分かれて研究発表や講演会などを行っております。
マンガ風に描かれているキリストの受難(『アウグスティヌスの福音書』6世紀 Cambridge, Corpus Christi College MS 286, fol. 125r)(c)The Parker Library
―主にどのような学問領域について研究なさっているのでしょうか。
日本中世英語英文学会では、中世英語英文学を対象とした学問領域にて研究を行っており、主に15世紀までの英語に対する言語学的研究や、英語で書かれた文書の研究を行っております。加えて、同時代にブリテン島で書かれたラテン語、フランス語などの文書、写本や印刷文化の研究なども行っている次第です。
世界中の学会との交流を促進し、若手研究者の登竜門となる
若手研究者に対する授賞式風景
御学会の具体的なご活動としては、どのようなことを行っていらっしゃるのでしょうか。
日本における中世英語英文学および関連領域の研究を促進し、その成果を公表するとともに、国内外の関連諸学会との交流を図っております。研究結果の発表の場として、例年、シンポジウム、ポスターセッションなども含む全国大会を12月に開催しております。また、東西支部ではそれぞれ6月に研究発表を行います。国内外から講師の方をお招きし行う講演会の開催なども、あまた行っております 。
1985年からは、学会誌Studies in Medieval English Language and Literatureを毎年刊行しており、学会員の研究論文や新刊の書 評を掲載しております。加えて、会員へのお知らせや活動報告を目的とした会報MES JAPAN Newsの発行も行っております。近年では、若手研究者の育成を目的として、年に一度研究助成セミナーなども実施しており、少しでも社会に資することができればと考えております。そのほか、若手研究者対象の賞もあり、2023年度よりトラベル・グラントも実施しております。
大会等のオンライン化により、よりシームレスな国内外交流が実現
オンライン大会の様子とプログラム
―研究発表の場や学びの場を多岐に渡り設けていらっしゃいますが、昨今の社会情勢を受けて、組織の体制やご活動に変化はございましたでしょうか。
社会情勢を鑑みて、会員の安全面を担保するため、発表会や講演会のオンデマンドのビデオ配信や、zoomを利用したオンラインでの開催をしております。また、外部の方とのお打合せに関しても、オンラインにて対応を行わせていただいております。完全にオンラインの体制が整ったわけではなく、組織の運営上困難なこともございますが、オンラインの活用によって、困難を上回る恩恵を受けていることも事実です。その一つに、海外の研究者と繋がりやすくなったことが挙げられるかと思います。また、学会運営業務の一部が効率化されたことも恩恵の一つだと思います。今後もオンラインを上手く活用し、海外との積極的な交流を図り、新たな組織の在り方や活動の形を見出していきたいと考えております。
暗記学習から抜け出し、英語についてもっと知りたくなるきっかけを
処女に抱かれておとなしくなっている一角獣(『動物寓話集』14世紀 Cambridge, Corpus Christi College MS 53, fol. 190v )(c)The Parker Library
―最後に、若手世代へのメッセージをお願いします。
中世英語英文学の研究は実社会とあまり関係がなさそうなので、興味がわかないという人が多いかもしれません。しかし、語学の観点からは、英語史を学ぶことで現代英語の難しそうな文法や一貫性のないつづり字と発音の関係の謎が解け、目からうろこの情報をたくさん得ることができます。そしてこれまでは暗記するだけだった英語とのかかわりから抜け出して、英語についてもっと知りたくなるでしょう。そして、中世英文学を学ぶことによって、イギリスの文化的な背景の源を知ることができ、イギリスの人々の生活や考え方をより深く理解することができます。英語史や中世英文学の翻訳などを図書館で調べて是非、読んでみてください。私たちの学会にご興味のある方は、是非、ホームページをご覧になり、ご入会ください。どなたでも歓迎いたします。
人魚(『動物寓話集』14世紀 Cambridge, Corpus Christi College MS 53, fol. 201v)(c)The Parker Library
町を歩く神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ2世の象 (マシュー・パリス『大年代記』13世紀 Cambridge, Corpus Christi College MS 16II, fol. 152v)(c)The Parker Library
<学会概要>
名称:日本中世英語英文学会
設立:1984年
HP : http://www.jsmes.jp/
設立趣旨:日本中世英語英文学会は、中世英語英文学および関連領域の研究を促進し、その成果を公表するとともに、内外の関連諸学会との交流を図ることを目的として1984年に設立されました。この目的を達成するため、全国大会の開催、会誌 Studies in Medieval English Language and Literature (SIMELL)と会報MES JAPAN Newsの発行、そして研究助成セミナーの開催などを実施してい ます。