会社紹介
由緒ある呉服文化を守り、次世代へ伝承する老舗 有限会社丸伊呉服店
(左から同社代表取締役 増渕好次郎氏、取締役 増渕容子氏)
「呉服」という言葉に馴染みがない方も多いかもしれない。呉服という言葉は、古代中国王朝の「呉」から日本に伝わった絹の反物を織る技術を意味した古語の「呉服」が由来となってできた言葉である。そのため、呉服は仕上がった着物というよりも、反物や織物を指す意味合いが強い。呉服を取り扱う呉服店は、反物の状態から着物などへと仕立てを行い、日本の呉服文化を支えてきた。そのような呉服店の一つに、栃木県で創業から390年以上の歴史を持つ有限会社丸伊呉服店がある。今回は、歴史ある会社の代表取締役である増渕好次郎氏と取締役の増渕容子氏にお話を伺った。
老舗呉服店として積み上げてきた信頼とご縁
―丸伊呉服店様は創業から390年以上の歴史がある老舗企業ですが、呉服店のサービスとして、どのようなことがあげられますでしょうか?
増渕容子氏:現在は、たくさんの出来上り着物を見かけますが、昔は違いました。洋服と違って既製品が少なく、反物から誂えすることが一般的でした。そのため男並・女並と呼ばれる標準サイズがあり、お客様のサイズ(寸法)に合わせて調整し、お誂えするのが、呉服店の仕事でした。”お誂え”の着物はその方の体型に合った寸法なので、着心地の良いものです。弊店では今もその昔ながらの御仕立てをお勧めしています。洋服のようなデザインによる変化はありませんが、顧客それぞれのお好みに合わせて、着用のT.P.Oに合わせた品選びのお手伝いも致します。定期的に「お手入れ会」を開催して、アフターケアの情報も提供します。来店の際に、着付けのアドバイスも致しております。大好きな着物を楽しんでいただき、長く、大切に着ていただけるお手伝いを心がけています。
増渕好次郎氏:自分のお母さんやおばあさんの着物を現代の若者が着て楽しみたいと思う方も増えてきました。昔から世代を超えて着用出来るのがきものの良さでした。寸法直しの必要がある場合もありますので、気軽にご相談ください。
品質の確かさへのこだわり 時代に合わせたお客様との繋がりを
―購入して終わりではなく、使い続けていくための手厚いサービスを提供されてきたのですね。長い歴史の中で呉服を取り巻く環境や社会が変化している中、サービスや会社の姿勢に変化はありましたでしょうか?
増渕容子氏:以前は着物を日常着として着用する方もたくさんいらっしゃいました。30~40年前の話です。(笑) 現在は違いますよね。きものを着るのは「特別の日」冠婚葬祭での着用が一般的です。生活のリズムが早くなり、着装に時間のかかるきものは特別の日でないと着られなくなってしまったのでしょうか?残念です。それでも「和の文化」を貴ぶ日本人の心がきものを守ってくれると信じます。お客様とのコミュニケーションの取り方に工夫が必要だと感じています。期待(ニーズ)に応えたい気持ちはありますので何ができるか模索中です。スピード感が重視でしょうか?
増渕好次郎氏:若い世代の方に和装文化を伝える目的で、風呂敷や手ぬぐいのような身近な和装小物が、入り口になるのではないかと考え、以前から和小物コーナーも設けています。お客様に上手な着付け師を紹介することもありますし、地域の話題をテーマに、美味しい食べ物で話が盛り上がることもあります。小さなコミュニティですが、こうした人と人との繋がりが、商いの原点だと思いますね。老舗とは我々だけでなく、代々の先祖がやってきたことが今に繋がっているということを常に意識しています。自分達のことを次の世代の担い手が見ていると思うと、自惚れたり、商いを疎かにできないと思います。若い世代の方々に商いを通して我々の経験を伝えて、日本の和装文化も伝えていけたらうれしいですね。
若い世代が呉服(和装)に触れる機会から疎遠になると日本文化が危ない?
―時代が移り行く中、サービスを時流にあったものへと変化させたり、若い世代に呉服の伝統を伝えたいと思っても、難しく感じることもおありかと思います。詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?
増渕好次郎氏:そうですね、現代は核家族が増えてきたこともあり、お母さんから娘さん・お孫さんへという縦のつながりや、お客様同士の横のつながりといった、従来の当たり前がなくなってしまったと思います。子供時代の思い出、経験は貴重な財産になると思います。
増渕容子氏:最近はフォトスタジオ等で着物選びから着付、写真撮影までスピーディに出来るので多くの方が利用されています。とても便利だと思います。ただ、少し残念に思うのは、「なぜ、きものを着るのか?」とか「イベントの目的」が忘れられて撮影された写真のみに関心があるという方も多いことです。宗教の自由があるのでむずかしいことはパスしますが、例えば「七五三で神社にお参りするからきものを着よう」とか、「お祝いだから晴れ着を着よう」とか、そういうことに関心を持つ方が少なくなってしまったことが、呉服(和装)文化継承の危機だと思います。きものは「特別な日の衣装」になってしまったのでしょうか?
増渕好次郎氏:呉服(和装)離れとは対照的に、若い世代の方々が「和のテイストを自分の生活の中に取り入れたい」と日本文化に興味を持っていると感じる機会も多くあります。我々はパソコンやSNSでの情報発信が得意でないので、どうしたら新しいお客様、特に若い世代へアプローチ出来るのか、課題です。
呉服文化を次世代へ
(着物のリメイクサービスを行っており、スカーフなどを作成することができるそうです)
―最後に、今後はどのようなことに挑戦していきたいとお考えでしょうか?
増渕好次郎氏:得意でない情報発信を、世代を超えた仲間と共に発信することに挑戦してみたいです。スーパーやコンビニのレジのように単に物品を売って終わりというのではなく、「地域のことを知っている」「地元に仲間がいる」「着物のことなら何でも相談できる」といった、丸伊が大切にしてきた小さなコミュニケーション作りやお客様サービスに関して、皆様に知っていただけたらいいなと思います。
増渕容子氏:昔から日本には冠婚葬祭に際し、お金をむき出しのまま金銭の受け渡しをしない文化があり、祝儀袋・不祝儀袋を使う習慣があります。更に風呂敷・袱紗で金封を包んで持ち歩くことも大切にされてきました。金封に託した思いを大事にする心です。長年大切にされてきた方法は、若い世代にも引き継がれて、新社会人になった方が新しく金封袱紗をお買い上げ下さった時は、とても嬉しく思いました。こういう小さなことが、もっと広く伝わっていくといいなぁと思います。海外旅行をして異国文化に触れることは大きな発見ですが、日本人として知らない日本文化を発見するのもより大きな楽しみだと思います。グローバル化された現代だからこそ、個人のアイデンティティが必要になり、日本文化に精通すると外国人からの評価が高くなると思います。呉服(和装)も大切な日本文化ですから、私たちの得意とする分野で和文化継承への貢献ができればと思います。
<会社概要>
名称:有限会社 丸伊呉服店
代表者:増渕好次郎
設立:1629 年
所在地:栃木県宇都宮市宮町 3-11
HP:http://www.marui-gofuku.co.jp/
事業内容:呉服、着物、和装小物の販売