一般社団法人紹介
栃木県さくら市から地産地消を推進 一般社団法人 素木工房里山想研
2015年9月に、「SDGs – 持続可能な開発目標」が国連サミットで採択されてから、既に5年が経過する。また、日本国では、上記社会の実現に向け、2024年から森林環境税・森林環境譲与税を導入し、適切な森林の整備を進めていく。しかし、森林の整備に向け必要なのは、それを牽引するリーダーの存在と、継続的に発展しうる事業モデルの2つである。その代表格となるのが、一般社団法人素木工房里山想研の代表理事薄井氏である。都心から、栃木県さくら市に移り住み、スギとヒノキを基軸とした木工製品の地産地消を押し進める彼が目指す次なる挑戦についてお伺いした。
木工建設プロジェクトを通じて再認識した木材の価値
― はじめに、喜連川丘陵の里 杉インテリア木工館が創設された背景をお伺いしたいのですが、薄井さんはいつから木工の道に進まれたのですか?
薄井:私は元々、橋梁などを設計する会社でコンサルティングをしておりました。当時、木工は趣味で行っていた程度で、多少の興味はありましたが仕事にするつもりはありませんでした。しかし、1998年頃に、森林資源が豊富で林業が盛んな栃木県鹿沼市から、木材を使って橋を建設してほしいとの依頼が舞い込んで来たのです。法律の関係で橋の基礎はコンクリートで作ることになりましたが、床組と手すりは木材で建設するということになりました。そしてその設計に私が携わることになったのが、その後木材の魅力に惹かれていく大きなきっかけになりましたね。
― 実際に木材を使った橋の建設に携わってみて、徐々に木材の魅力に惹かれていったのですね。
薄井:そうですね。木材を使用して橋を建設するというプロジェクトが決まったことで、木材について改めて勉強をしました。その中で、木材が私たち人間に与えてくれる価値についてだんだんと理解していきました。例えば、現在私共が活動している木工館の周りにもたくさん生えているスギやヒノキは、かつて日本の戦後復興を経済的に支えてくれた重要な資材でした。しかし、高度経済成長を迎えると海外から輸入された安い木材が使われるようになり、今では、日本のスギやヒノキは大量に植林されたまま放置されています。その結果、スギやヒノキは、我々にとって山を荒らし、花粉症を引き起こす存在として、邪魔者扱いされるようになってしまいました。一方で、鉄やコンクリートなどの資材を製造すると、膨大な二酸化炭素を排出しますが、木材は二酸化炭素を吸収して酸素を供給してくれます。それだけでなく、スギやヒノキは森林としての保水機能も持ちます。このように、スギやヒノキなどの木材は、私たちの生活に必要不可欠な水と酸素を育む素晴らしい資材であるということに改めて気づかされたのです。この気づきがきっかけとなり、今まで接していた鉄やコンクリートの代わりに木材を使用し、環境問題の解決に貢献していきたいという気持ちが芽生え始めました。
栃木県さくら市の廃校をリノベーション。杉インテリア木工館を立ち上げ、地産地消を推進
― 薄井さんのお話を聞いて、私たちは昔から木材に支えられて生きてきたということを改めて感じました。その後はどのようにして木工館を立ち上げるまでに至ったのですか?
薄井:ちょうど私が40歳を迎えたタイミングで前職を辞めて、本格的に木工の勉強を始めました。ただ、木材の加工方法は、もともと取り扱っていた、スチール、コンクリート、プラスチックと全く同じであったため、自分の中では使う材料とスケールが変化しただけで、前とやっていることは大きく変わらないという印象でした。そして2012年に、廃校となった旧さくら市立穂積小学校の校舎を借りて、喜連川丘陵の里 杉インテリア木工館を立ち上げました。
― 小学校の校舎だったということもありとっても立派な施設ですね。現在木工館ではどのようなことを行っていらっしゃるのでしょうか?
薄井:ありがとうございます。小学校の校舎だけでなく、グラウンドもお借りしているので、敷地が広く、そして何より自然に囲まれていて風通りもよいので、お客様から「気持ちいい場所ですね」とお伝えいただくことが多いです。そんな校舎を活用し、弊社の運営する木工館では、家具、小物や子供達向けの遊具など、合わせて500点以上を展示・販売しています。それだけでなく、お客様に立ち寄っていただいた際に、木工を体験いただくことができる機会もご用意しております。お子様も参加できる1〜2時間程度の木工体験と、大人対象の本格的な木工塾を実施しており、皆さん非常に夢中になられます。
― 展示されている小物や家具はどれも温かみがあってとても素敵です!県外からも、こちらにいらっしゃるお客様も多いのではないでしょうか。
薄井:そうですね、ありがたいことに県外のあらゆる場所からこちらに足を運んでいただいております。木工塾はお客様のご都合に合わせて、お越しいただき学ぶことができる仕組みですので、県外からも来やすいよう工夫しております。また、現在塾生は約300名ほどいらっしゃいます。ただ、常に300名全員が動いているというわけではなく、例えばお子さんやお孫さん、お友達に何か作ってあげたいというときなどに再びお越しになる場合もございます。皆さんそれぞれのご都合に合わせて自由に来られるので、特に混み合うといったこともなく、広々としたスペースで好きなように活動していただけます。
地域内外から人が集う、杉インテリア木工館の魅力
― 実際に木材の家具や小物に触れると自分で作ってみたくなる気持ちがわかります。大人も童心に帰れる場所でもありますね。
薄井: おっしゃる通り、家族連れで簡単な木工体験にいらっしゃるお客様も多いのですが、気づいたら子供よりお父様が真剣になってしまっていることも多いです。ルールが確立されていないので、最初は子供たちも何を作ったらいいかわからないと戸惑っているのですが、私がサンプルを置いて、真似して作ってごらんというと、好きなようにやっていいのだということを理解して子供たちもすぐに夢中になりますね。
― 建物の中だけでなくお庭もとても立派ですが、こちらは何かイベントなどに利用されていたりするのでしょうか?
薄井:庭もそれなりの広さがありますので地元の方々がゴルフの練習をしに来たり、キャンプ好きの方がテントを持参していらっしゃったりすることもあります。そして芝が生い茂ると地元の方々が協力してくださり芝刈りをして、この庭をきれいに保つことができています。あとは、ピザ窯も持っていて、テラスにテーブルと椅子がありますので、一休みしながらお食事もできます。体育館については、行政が管理している施設となっておりますが、学生が合宿するための宿泊施設としてもご活用いただくこともできるかと思います。皆様のご要望に合わせて、これからもいろいろな場面で利用していただきたいと考えております。
次世代と共に、サステイナブルな世の中を目指す
― 木工館のこれからの可能性も楽しみです。今後の事業発展の方向性について教えてください。
薄井:森林環境税・森林環境譲与税が間も無く導入され、日本全体で、山が荒れることを防ぐために木を積極的に整備していくという動きが強まってきています。私たちはまさにスギやヒノキに特化して活動しておりますので、この流れは追い風になるなと感じております。次なるチャンスを掴むために、どんどんと事業を広げていきたいという気持ちもあるのですが、そのためには、そろそろ一緒に働いてくださる方をもう少し増やしていく必要もあるなと感じているところです。これからは、未来を切り開く次世代方々、つまり若手の皆さんにも、木工館まで足を運んでいただき、かつての私のように、木材の魅力を体感していただく機会を増やしていくことができればと思っています。
― 最後に、今後の木工館のビジョンについてお聞かせください。
薄井:新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、一般のお客様は減少しているのですが、ありがたいことに小学校や幼稚園、地元の宿泊施設の皆様からのご注文は多くいただいています。自然を感じることのできるおもちゃは子供達のストレス解消にもなりますし、木材を使って何かを作るといったときもこちらで加工してからお渡しするので刃物を使う必要がなく、安心安全なのだと思います。木工塾の受講生も、年々増加してきておりましたが、こちらもコロナの影響で一時的に受講生の伸びが減少しています。とはいえ、都心から離れ、リフレッシュをしたいと言うような声も多くいただいております。今後も、より多くの地域内、そして地域外の人々に対して、木材の魅力を体験していただき、豊かな自然による癒しを提供していきたいと考えております。そしてその先に、サステイナブルな世の中を作っていくことができればと思います。