学会紹介

酸素のマイナス面を活かし、日本人を幸福に導く 一般社団法人日本酸化ストレス学会

生物が生きていくうえで、酸素が必要不可欠ということは誰しもが知っていることであろう。生物は呼吸をする度に体の中に酸素を取り込むが、取り込んだ酸素が体の中で他の物質と結合することで酸化し、細胞を傷つけてしまうこともある。これは、酸素がある種の毒性を含むためと考えられている。日本酸化ストレス学会では、この一見ネガティブに感じられる「酸化」という現象を有効活用するための研究・活動を行っている。今回は、内藤裕二理事長と、赤池副理事長に、日本酸化ストレス学会での活動に対する思いや、今後の展望をお伺いした。

酸素の中に毒があるという事実

― 酸化ストレスとはどのような現象を指しているのがお聞きしてもよいでしょうか。

内藤氏:前提として、酸素には生物にとって毒となる成分が含まれています。私たちは呼吸によって酸素を体内に取り込みますが、酸素は体内の細胞と結合します。いわゆる酸化のことです。体内の細胞は酸化によって傷つけられることがあり、私たちの体は錆びた状態に近づいていきます。これが酸化ストレスです。

― 酸素にそのような特性があることには驚きました。次に、日本酸化ストレス学会がどのようなことをされているのか、お伺いしてもよろしいでしょうか。

内藤氏:私たちの活動は、生物にとって毒となる酸素の成分を明らかにすることで、体の錆び防止に貢献し、健康な体の状態を保つためのお手伝いをしようというところから始まりました。何が体に悪影響を与えるのか、そしてどうすればその成分を人間にとって有効活用できるのかを日々研究しております。酸化や抗酸化について科学的にきちんと説明できるのは、この学会だけであると自負しております。

40年以上続く歴史を誇る学問

― 日本酸化ストレス学会の設立の経緯について教えてください。

内藤氏:当学会はかなり古くから歴史があります。発端としては、京都大学の早石修らが1977年6月に「過酸化脂質研究会」という研究会を設立しました。これが1987年10月改名されて「日本過酸化脂質・フリーラジカル学会」になりました。また、1988年に開催された国際フリーラジカル学会を契機として設立された「日本フリーラジカル学会」もありました。それらの「日本過酸化脂質・フリーラジカル学会」と「日本フリーラジカル学会」と、更に「磁気共鳴医学会」が合併し、その後、それぞれの学会を発展的に解散し、新たに「日本酸化ストレス学会」として発足しました。そして、2018年4月に一般社団法人日本酸化ストレス学会として法人格をもち、今に至ります。

― 歴史ある学問にもかかわらず、世間一般では「酸化ストレス」という言葉になじみのない方々もいらっしゃると思います。これまでに、酸化ストレスが学問として注目をあびた機会などがありましたら教えてください。

内藤氏:今から30年以上も前になりますが、ビタミンEが酸化を予防しているとわかったときは大きな研究のブームになりました。未熟児で生まれた赤ちゃんが網膜症になることがあるのですが、それもビタミンEの欠乏が理由の一つだったのです。ただブームは来たのですが、人間はなかなかビタミンEの欠乏症にはならないということもわかり、今は落ち着いています。

組織の内外を連動させ、研究の社会実装を進める

― あらゆる学会では、研究の社会実装が役割の一つとして挙げられると思います。その観点から、日本酸化ストレス学会の取り組みについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

内藤氏:いくつかありますが、一つは、抗酸化や酸化に対処できる新しい薬を生み出すことが挙げられます。もう一つは、食べ物のように口から摂取するものというカテゴリで、新たな製品を生み出したいと思っています。酸化ストレスに対処するという面で、食事というアプローチはよいと考えています。というのも、何気ない日常の中に組み込めるものは継続しやすいからですね。口から摂取するような製品を生み出す際には、安全性が非常に重要ですので、そういった面もきちんと考慮して慎重に開発を進めていく予定です。

― ありがとうございます。社会実装する上で、他分野の学会や産学官連携についての考えをお聞かせ下さい。

内藤氏:産学連携はどんどん進めようと話しています。2020年度では、副理事長の赤池先生をトップとして産学官連携委員会を新設しました。企業様は基礎研究をきちんとされていているため、応用の研究もすることができると考えています。実は企業様がされている研究の中に、私たちにとって新しい知財となりうるものもあるため、上手くコラボレーションをすることができればと思っております。また、逆に私ら研究者が知財と思っていないものが、企業様から見たら知財というものもたくさんあるようです。そのため、新たな事業や研究に直結しなくとも、企業様とはよく話すようにしています。

赤池氏:企業様の活動や商品の有用性・機能性に関して、権威付けをする役割を学会が担うことができると考えております。講演会の企画や、ポスターセッションでブースを出すこと、スポンサーになって頂いた組織には総会に出ていくなどの学会活動は、日本酸化ストレス学会の前身である学会から行っており、今後も続けていければと思っております。

アジアの代表として、日本人を幸福にする研究を

― 今後学会活動として、課題になる点や注力される点はどのようなことでしょうか。

内藤氏:一つは若手の育成です。学会が大きくなるためには、先代から受け継いできたことを背中で見せて、若手を育成しなくてはならないからです。2020年2月には「若手研究者の会」というものを発足し、スクールやシンポジウムを若手が主催し、運営を学んでもらいます。また、国際交流にも力を入れています。国際学会とアジアの学会並びに、オーストラリアとのJoint学会に関しては隔年で行っており、頻繁に海外との連携を図っています。国際的な大会だけでなく、国内学会に関してもきちんと運営を行っており、今年は5月に仙台を拠点にWEBで開催予定です。

― 今後の日本酸化ストレス学会が担う社会での役割についてお聞かせください。

内藤氏:学会として、どうしたら日本人が幸福になるかということを常に考えながら活動しています。というのも、日本では、患者さんの怪我や病気が治っても幸福にならない方が多いという事実があり、日本人は先進国の中でも幸福度ランキングは低く58位です(世界幸 福度報告書 2019 年度版)。このような現代であるからこそ、科学的なデータに基づいた議論をすることは重要だと思っています。私たちの学会は、派手には活動していませんが、国際フリーラジカル学会下部組織として、アジアの中の代表として、そして、理事長である私は、アジアのトップとして、私たちのアイディアを活かして、幸福度という点で社会に還元できたらと思っています。


<学会概要>
名称:一般社団法人日本酸化ストレス学会
設立:1977年6月12日
HP :http://sfrrj.umin.jp/
Youtube:なし
SNS:なし
設立趣旨:当法人は、酸素由来の活性種や各種フリーラジカルによる酸化ストレスに関する研究の進歩・発展に寄与することを目的として、会員相互並びに関連機関との連絡を維持し、本専門研究分野の知識の交流を図る。