学会紹介
高分子の科学・技術を社会で生かすための基盤作りを担う 公益社団法人 高分子学会
世の中の物質はすべて、分子、そして原子へと分解できる。その分子のなかでも、数千個以上の原子からできたものを「高分子」という。この高分子に関する科学及び技術の基礎的研究をし、高分子を社会で活かす方法の模索、学術文化の発展並びにそれらを担う人材の育成を図っている団体の一つが公益社団法人 高分子学会である。今回は事務局長の平坂雅男氏に、高分子学会のより具体的な活動内容や、高分子を社会へ応用するにあたり必要な産学連携等についてお話を伺った。
学術界にとどまらない学会の活動
― まず高分子学会の設立の経緯と概要についてお教えください。
平坂氏:私たち高分子学会は、高分子の基礎的研究や応用研究により学術の発展や人材育成を図り、さらに、工業的な利用によって社会の発展に寄与することを目的としています。アメリカのデュポン社が1935年にナイロンを発明し、工業技術を発展させましたが、それが日本でも脅威だということから、1941年に財団法人日本合成繊維研究協会という協会が設立されました。その後、形を変えて、1953年に公益社団法人 高分子学会が誕生しました。このように、高分子学会は、高分子の技術を発展させ産業に活用しようということから創立しております。今は、高分子といいましてもその応用範囲や専門領域が広いため、テーマ別の研究会を21ほど運営しており、日本全国、北は北海道から南は九州まで8支部に合計9,500名を超える会員が所属しています。
― 高分子学会の魅力、他の学会との異なる特徴はどういった点でしょうか。
平坂氏:高分子学会の魅力を挙げさせていただきますと、研究者の研究発表の場のみならず、特に企業の方に対しては、学会の豊富な情報量、研究者とのネットワークや他の企業との関係構築ができることが挙げられます。また、学会を通して、製品や技術の情報発信や、優秀な学生との関係づくりができます。そして、企業だけのメンバーで活動するサブグループとして高分子同友会があることです。会員以外に対しても、中高生向けに、高分子未来塾や漫画などで高分子をわかりやすく紹介しています。
― ありがとうございます。具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。
平坂氏:学会であるため、学術発表のために年次大会や討論会などの学術講演会を開催しています。これらは、参加者3,000名規模のものです。そのほかには、ポリマー材料フォーラムや国際会議の開催、論文誌や機関紙『高分子』の発行、学術あるいは産業に貢献した人に対しての表彰事業も行っています。社会一般に対する活動といたしましては、高分子未来塾という別のサイトを作って柔らかめの情報発信をしております。研究者の専門用語は難しいため、現役の博士課程の学生に執筆してもらい、小中高もしくは父兄の親御さんに読んでいただいております。最近では、微小なプラスチック粒子であるマイクロプラスチックによる海洋汚染が問題となり、プラスチックは悪者にされています。しかし、プラスチックは、我々の生活になくてはならないものであることは事実ですから、環境という観点で見たときの高分子の未来についても発信しております。
高分子の特徴と可能性
― 次に高分子そのものについてお伺いしたいのですが、何と説明すれば読者の方に理解してもらえるでしょうか。
平坂氏:そうですね、まず前提としまして高分子は私たちの身の回りにたくさんあり、意外にも身近な存在です。スマートフォンやパソコンなどのディスプレーにも高分子が使われています。物質を構成する要素を分解していくと、原子や分子といった言葉が出てくると思いますが数千個以上の原子からできているものを「高分子」または「ポリマー」と言います。そして、高分子は分子がいくつも鎖状につながった構造をしています。
― ありがとうございます。他の物質と比べたときの特徴としては、どのような点が挙げられますか?
平坂氏:軽さ、加工のしやすさ、衝撃への強さですね。わかりやすい例としては、メガネのプラスチックレンズがあります。ガラスレンズに比べて、軽く、衝撃にも強いです。また、飛行機の窓も軽量化のためにプラスチックが用いられています。逆に、プラスックによっては化学物質に弱いという特性もあるために、アルコール除菌シートで拭くと曇ってしまう場合もありますので、注意してください。
学会のみでは難しい高分子研究の社会実装
― 幅広く応用できる学問だということがわかりました。学会の役割の一つでもある高分子研究の社会実装という点につきまして、ご意見お伺いしてもよろしいでしょうか。
平坂氏:学会が自ら研究の成果を産業化することは難しいです。そのため、その機会を作ってあげることが重要です。学術界のシーズをいかに企業に、あるいは、企業側のニーズを学術界に伝える場を提供することが学会の役割です。そこで、講演会や交流会で、学術界や産業界の方々のコミュニケーションを円滑にするための取り組みも行っています。
― 「学会自らがやるのは難しい」とのことですが、社会実装をする上での、産学連携についてご意見お聞かせください。
平坂氏:産官学の連携については、「場と機会を作る」ということが大きな課題です。というのも、海外では企業のニーズをすくいながらうまく先生と結びつけるしくみがある大学が多くありますが、国内の大学はこの点が弱いです。そして、学会がこのような連携のしくみを持つことは難しいと感じています。産学連携については、本来は、イノベーションを起こすための産学連携ですので、手段と目的が逆転してはなりません。すなわち、産学連携したから結果がでるのではなく、目的を意識することが重要です。事業にむすびつく技術の探索や、研究を進展させるために大学の知恵を借りるなど、産学連携はひとつの手段です。
―国内で、産学連携をする際に重要になるのはどういった点になるかお伺いしてもよいでしょうか。
平坂氏:産学連携は、企業の中にキーマンがいるかがとても重要だと思っております。企業の技術戦略を理解し、オープンイノベーションの観点から、どのように大学を活用するかを考えていかねば難しいと感じております。キーマンの役割の1つとして情報収集がありますが、情報収集のためのネットワークを作ることも必要です。例えば、大学の研究情報は論文や学会発表で取れますが、研究者とのネットワークがないと隠れた情報はとることがきません。このような研究者とのネットワークを作るために学会を活用し、産学連携に落とし込むことがとても重要だと思います。
高分子を社会で活かす基盤作りを目指して
―最後に、今後の高分子学会の社会の中での役割についてお聞かせください。
平坂氏:一つは会員に対して、研究分野、産学官などの組織、そして年代など多様性にあふれる出会いの場を作り、研究のコラボレーションや人と人のネットワークを生みだすことです。もう一つは、社会の課題を認識し、ソリューションを提供するための情報の源泉となることです。日本のみならず、論文誌や国際会議をとおしてグローバルな情報拠点となることが必要です。そして最後に、新たな技術を開発する次世代研究者の育成や、将来の社会基盤を支える製品や事業をつくりだすイノベータの育成を推進します。今後、環境が目まぐるしく変動する社会に対して、情報や人が交流するプラットフォームを形成することで、知識が融合され様々な課題に対処できると考えています。
<学会概要> 名称:公益社団法人 高分子学会 設立:1953年12月23日 HP:https://www.spsj.or.jp/ Youtube:なし SNS:なし 設立趣旨:高分子に関する科学及び技術の基礎的研究及びその実際的応用の進歩、学術文化の発展並びにそれらを担う人材の育成を図り、もって社会の発展に寄与することを目的とする。